耳鳴り編

家族との憂うつに終止符を打つと、
日常に音楽が戻ってきた。

「このまま一生、音楽ができないかもしれない」
プロのシンガーソングライターとして活動する中で、 耳鳴りに襲われたのは突然だった。

数ヶ月経っても収まらないその症状に、まともにピアノの練習すらできなくなってしまったのだ。

受診した耳鼻科で診断されたのは「メニエール病」。

あわてて病名で検索し、飛び込んできたのがtrust bodyのホームページだった。

「私はもう一度音楽ができるようになるんでしょうか?」
そんなこと聞いても無駄だ、と思いつつ、聞かないわけにはいかなかった。

「大丈夫。きっと良くなります。まずはお体をみていきますね」

そう話したスタッフの登根さんが、私の首周りに触れる。

「首の筋肉が硬くなって、リンパ液のめぐりが悪くなっていますね。
これが直接の原因になっている可能性が高いです」

登根さんが解説を続ける。

「しかし『メニエール病』は、ストレスが原因で発症することが多い病気です。もしかしたら根本の原因があるのではないかと思っているのですが…なにか苦労されていることはありますか?」

登根さんに聞かれて、はたと考える。本当に『それ』が原因なのかはわからなかった。ただ、心当たりといえるものは『それ』しかなかった。

「実は、少し前から家族の中で色々と問題が出てきて、自分でもストレスの限界がきていたのですが…。他の人に心配をかけるわけにはいかないので、うまく関係を取り繕っているんです。」

ストレスの心当たりは、もはや「日常」となった家族関係だった。

「そうでしたか…。お話をお伺いするに、マッサージをしたり体をほぐしたりするような施術では、お客様の症状は根本から改善できないと考えています。次回ご来院いただく際は、2時間の心理セラピーを実施させていただけませんか?」

もう一度、音楽を取り戻せるなら。

そう考えて依頼したセラピーでは、一通り過去の出来事を聞かれた。
小さな頃の苦い思い出や、アメリカ留学を通じて、日本の堅苦しさを感じてしまったこと。

幼少期から一つずつ出来事を振り返る中で気づかされたのは、「自分を犠牲にしてでも、周りに貢献しなくてはいけない」という価値観を自分がもっていたこと。

「ご家族に辛いことを言われるかもしれませんが、決してご自身を責めないでください。むしろ、ここまでよくがんばってきました。一度、自分を犠牲にするような考えからは一度身を置いてみませんか」

その一言に、心がふわっと軽くなった気がした。

客観的に家族との関係を見つめ直すことは、3年間で「慣れて」しまった自分にとっては何より大切だった気がした。

そこから1年。

首周りの施術とカウンセリングを続けるうちに、気がつけば耳鳴りの症状も軽くなり、通院の頻度も減っていた。

今はまた、多くのお客さんの前で鍵盤を弾くこともできた。

もう一度ピアノを弾けるようになってから、登根さんに自分のCDを贈った。

今はただ、多くのお客さんの前で鍵盤を弾ける毎日が、尊く感じる。

  • 40代 女性
  • 施術期間:1年(16回通院)
  • 担当者:登根 辰徳